2019年に昭島市内で刺身の美味しいツウが好む和食店を開店。和食の職人として、都内割烹店で修行を重ねてきたオーナーの松本さん。なぜ今、昭島・福生の地で2店舗を経営しているのか。同店で実現したいこと、スタッフたちに求めることについて話を伺いました。
企業情報: SDフードマネジメント合同会社
事業概要:飲食業・ケータリング、模擬店出店業
住 所:昭島市・福生市
代表取締役:松本 潤
本格的な和食を気軽に食べることができる店
伝統的な技術を用い、繊細かつ丁寧に作り込まれた、彩り鮮やかな美味しい和食。日本が誇る文化の一つです。今や伝統技術を持つ職人、継承する者の数も減り始めています。
とはいえ、都心の一等地にはハレの日に足をのばすかしこまった店から、カジュアルに楽しめる店までひしめくほどあります。しかし都下でそれらの店を探そうとすると、意外と身近なところには存在していないと感じませんか。
気軽に立ち寄れる雰囲気だけど、本格的な技術を持つ職人がいるツウ好みの店ーーそんな店を昭島・福生市内で2店舗経営するのがSDフードマネジメント合同会社です。
オーナーの松本さんが初めて開いた店「ライブキッチン MJ食道」は、新鮮な刺身が自慢。毎日神奈川県の三浦半島近郊から取り寄せています。日本酒やワインにも力を入れています。世界、全国の各地からあらゆる味わいのアルコール飲料を取りよせ、常時30種類ほどを店内に揃えています。
日本酒やワインが大好きで毎日のように通うお客様もいるのだとか。すると、当然ながら職人の腕と目利きが試されます。
カウンター越しに「今日のおすすめは?」と尋ねれば、職人があなたのその日の気分に合わせて「これだ」とセレクトしてくれるでしょう。
駅から徒歩0分というアクセスの良さも魅力です。ご近所住まいの人はもちろん、仕事帰りにふらっと寄りたくなったらすぐに足が向く場所にあることは嬉しいですね。
家のダイニングで一息つくかのように、昭島エリアの酒好きさんがふらりと足を伸ばしてしまうのでしょう。
一方、2店目である「いし川」は、市内中央部にあります。駅から車で10分弱、閑静な住宅街の緑豊かな敷地の一角にゆったりと店を構えています。それもそのはず。ここは多摩地区が誇る老舗酒造「石川酒造」併設の和食店だからです。
木目と石造りがどこか懐かしい雰囲気の店がまえは、蔵どころならでは。1店舗目同様、新鮮な刺身を毎日仕入れ、その日その日の仕入れに合わせてメニューをアレンジ。酒造の看板日本酒『多満自慢』や『多摩の恵』、クラフトビールの『TOKYO BLUES』との掛け合わせを楽しめるメニューについて日々考え抜きながら料理しています。
なかでも酒造で生まれた酒粕を使用した「酒粕もつ煮」や、塩麴につけた「若鶏の塩麴漬け唐揚げ」は、“「いし川」ならでは”と、訪れるお客様が喜んでいるそう。
1日のうち最も盛況なのはランチタイム。なぜなら、隣接する「石川酒造」に日々お客様が訪れるからです。遠方からバスツアーなどでもお客様が訪れると、敷地周辺はおお賑わい。もちろんお客様は見学のあとには食事もしたい、と店に足を伸ばします。
「ランチタイムは、グループや団体の女性客が主役です。彩り豊か、あれもこれも味わいたいという希望を叶える、会席メニューを中心に用意していますね」
手に職をつけて いつかは故郷で店を持ちたい
オーナーの松本さんは、「手を動かす、職人の仕事に憧れて」と前職を辞めて料理人の世界に飛び込みます。23歳の時のことです。
「実家が魚屋だったんです。ですので、若い頃から実家で魚を捌くことが多かったのです。何か手に職を、と考えた時に魚を捌ける仕事をしたいなと思ったのです。料理人の世界に飛び込んだことは自分にとって自然なことでした」
修行先の都内の店は、入店後ほどなくして板場の総責任者である「花板(はないた)」につく。
修行時代は想像以上に過酷だったと話します。
「当時は和食店でふぐ刺を作るために夜中まで仕込みをしていましたね。毎日100皿の準備です。明日の自分を救うためにはそうせざるをえなかった。体力的にも精神的にも厳しかったですね」
魚の仕込みと向き合うこと約5年。他にも技術を身につけたいと、2011年、当時の親方について、店を跡にします。
その後2店舗目では、魚に限らずあらゆる調理を経験しました。最初の1年は焚きものを中心に修行し、最終的には店舗経営まで全てのことを学んだと話します。
「例えば、前菜や焼きものに添えて提供される流し缶(寄せもの)。食材を寒天や葛で寄せて固めた料理ですが、こうした品は、職人の胆力を求められます。豪快に魚を捌く技術とは全く異なります。こうした技術も身につける必要がありました」
もちろん調理の工程に好き・苦手はあったと話します。しかし、松本さんはそれでも楽しみを見出していたそうです。
「いわば技術の筋トレだと思っていました。自分の中で”達成感”を味わいたい気持ちです。そういう細かい喜びが仕事をする上で自分のモチベーションになっていたし、結果人のためにもなっていたと思いますね」
都内にある割烹に通う顧客の目利きは厳しかったと振り返ります。
「顧客は必ずしも言葉で”美味しい”と本音を語るわけではないのです。”美味しい”と言っていても、次は来店しなかった。そんなことも往々にしてあります。では職人として、顧客がどのように感じているかをキャッチするのか。それは一口目を口にした瞬間の表情です。
料理がスッと口に入り、口角が上がったら、語らなくとも上手いんだとわかる。それを板場からほんの一瞬見届けることが、やりがいであり、職人としての醍醐味です」
松本さんはお客様の変化をこのようにして感じとりながら、日々提供するお料理の味のバランスを探り続けていたそう。
2店舗目での3年の修行後、2019年に故郷・昭島で自ら店を出すことになりますが、お客様が「上手いかどうか」を見極めることは今でも変わらぬ習慣です。
チームワークの良さ、スタッフに支えられて2店舗を回している
2019年11月、拝島駅前に1店舗目である「ライブキッチン MJ食道」を開店します。しかし、数ヶ月後に新型コロナウイルスの流行で、飲食店は深刻な影響を受けます。同店も例外ではありませんでした。常に転機を救ってくれたのはスタッフたちだと松本さんは話します。
「その後、2店舗目として『いし川』を開店しますが、この挑戦にあたり、背中を押してくれたのもスタッフたちでした。“私たちが挑戦したい”と。積極的なスタッフが集まっています」
ランチタイムはパートスタッフが中心に、夜の時間帯は社員が中心に店を運営しています。朝から晩まで勤務に入る人は、1日のうち2店舗をハシゴして仕事をすることも。例えばランチタイムは「いし川」で勤務をスタートし、夜になると拝島駅前の「ライブキッチン MJ食道」へ移動。こうして店を運営しています。
「大変なのは承知です。しかしなにか”これをやりたい”と言う思いがある人にとっては、やりがいのある場なのではないでしょうか」と松本さんは話します。
チームワークを大事にするため、社員内で定期的にミーティングをしています。
また、社員内での仕事の良い面、もっと伸ばしたい点を客観的に把握をすること、コミュニケーションのためにも相互評価をする時間を設けているのだそうです。
「一人で決めてもいいものが生まれない。だからみんなの声を聞いて、何事も決める際には民主主義にしています」
責任を伴いながら、自己実現をする豊かな環境
今後新たな取り組みについて考えている松本さんは、店に加わってくれる仲間が増えることを願っています。店舗の運営は、チームワークが大切だと考える松本さん。小さな企業なので、協業は必要不可欠です。だからこそ、メンバーや店とのフィット感を重視しています。
今回は主に職人になる仲間を探していますが、そのことに気負いを感じないでほしいと話します。
「和食の店というと、職人になりたい人って難しそうに見えるんですよね。ですがそんなことはありません。もちろん食の現場経験がある人だとありがたいですが、既成概念にとらわれないことがこれからは必要だと思っています」
そう考えるのは、松本さんがこれまでの料理現場で疑問に思っていたことが根底にあるそうです。
「確かに和食は非常に繊細で丁寧、工程も複雑です。しかし、この工程を簡易にすればもっと早く美味しくできるのでは? と思うことが常にありました。もちろん基本の技術は習得しておくべきですが、基本を理解しながら、いかに今の時代や、店の経営規模に合わせて工夫ができるか。そこが大切だと思うのです」
だからこそ、これから迎え入れる仲間には興味があること、やってみたいと思う気持ちを一番求めるそうです。不可避なことへの柔軟さや面白がれるかがこの店では求められています。
「”やってみたい”、”やる”と思えるならば、その気持ちに伴走して、教えます。その上で適性があるかを見つめていきたいですね。もちろん将来独立したい人も歓迎です。独立前の修行の場としても向いているかもしれないですから」
こうして見ると一見厳しい環境にも見えるかもしれません。一般的に、飲食店は朝から晩までと拘束時間が長く、長時間労働になりがちな点は否めません。これはどの店舗も同様です。同店も
実労働時間は9時間と長いものです。だからこそ、福利厚生として休暇をしっかり取ること、スタッフ全員でのレジャーの機会を取り入れるなど、バランスをとっています。
自由には責任も伴います。しかし、やりたいことがある人にとっては、それを実現できる豊かな環境。羽ばたこうとするあなたを待っています。
従業員さんに聞いてみました
●入社を決めた理由を教えてください。
もともとイタリアンで働いていたのですが、仕事を辞め、宙ぶらりんの時期がありました。松本社長の料理の大ファンである父親から「お前、ここで働け」と紹介されたのがきっかけで2019年の2月からお世話になっております。
●どんなところにやりがいを感じますか?
やはりお客さんから「おいしい」と喜んでもらえることが何よりも嬉しいです。
また、うちの会社はマニュアルの仕事があまりなく、創造力を活かした料理をすることできます。他ではあまり経験できなことを実践できるので、成長のスピードは早いと思います。
●成長を感じたエピソードを教えてください。
2021年に福生市に「いし川」がオープンしてから、「MJ食道」の厨房を一人で任せられることが多くなりました。それ以降、責任感も一層に芽生えましたし、お客さんからダイレクトにいただく反応も成長の糧になっています。