#23 「想定外」にしない経営へ 富士山噴火と企業の備え

第3週木曜日に発信

この会社の特徴

今月、日本列島を襲った最強寒波により、八王子でも気温が氷点下を記録し、交通機関やイベント等に影響が出ました。首都圏は雪や寒波に比較的弱い地域であり、わずかな積雪や凍結でも社会機能が滞ることを改めて実感しました。

過去の記事でも触れてきましたが、企業経営において自然災害への備えは、事業を継続するための重要な経営課題です。

*過去の記事

「第16回目 災害・サイバー攻撃・感染症…会社を止めないためのBCPとは」

( https://tama-work.jp/news/umezawa-sdgs16/ )

「第17回目 有事に強い会社はこう作る!事業継続力強化計画の始め方」

( https://tama-work.jp/news/umezawa-sdgs17/ )

自然災害には豪雨や河川氾濫といった水害、大雪や寒波、猛暑や熱波、地震や液状化などの地盤災害、感染症の流行などが挙げられます。

これらの災害の中で、多摩地域の企業として特に考慮すべき地域特有の自然災害リスクが「富士山の噴火」です。富士山が噴火した場合でも、溶岩(マグマ)が多摩地域まで流れ込む可能性は極めて低いとされていますが、問題は噴火時の火山灰です。

東京都「Tokyo富士山降灰特設サイト」( https://www.fujisan-kouhai.metro.tokyo.lg.jp/ )によると、多摩地域で2cmから10cm規模の降灰が予測されています。これは交通網、電力、通信、物流といった都市インフラに深刻な影響を与える水準です。わずか数センチの降灰でも、鉄道の停止や停電が発生する可能性があります。

今回は、富士山噴火という経営リスクと、その備えについて、多摩地域の企業が直面し得る現実を踏まえながら整理していきます。

1. いつ起きてもおかしくない「富士山の噴火」

1707年、江戸の町に黒い灰が降り積もりました。歴史上「宝永噴火」と呼ばれる富士山の大噴火です。農地は壊滅し、物流は止まり、復興には長い年月を要しました。それから300年以上、私たちは同規模の噴火を経験していません。しかし、富士山は現在も活火山に分類されており、過去約1,000年の間に複数回の噴火を繰り返しています。噴火の正確な時期を予測することはできませんが、「起きない」と断言もできません。

地震のような一瞬の破壊とは異なり、火山噴火による降灰は数週間にわたり都市機能を麻痺させる可能性があります。発生確率は高くないかもしれませんが、発生した瞬間に経済活動を根こそぎ奪う――パンデミックがそうであったように、経営にとって厳しいシナリオの一つです。

2. 設備への影響

火山灰は微細なガラス質の粒子であり、硬く鋭利で、電気的特性も持つことから、企業の設備に多方面の影響を及ぼします。

まず深刻なのは電力供給への影響です。降雨時に一定量以上の降灰があると、電線を支える碍子の絶縁性能が低下し、停電が発生する可能性があります。また、数センチ規模の降灰が続くと、火力発電所の吸気フィルタの交換頻度が増加し、発電量が低下します。需要抑制や電力融通で補えない場合、計画停電や広域停電に至るおそれがあります。製造ライン、冷却設備、IT機器など電力に依存する設備は一斉に停止するリスクがあります。

次に、空調設備への影響です。火山灰が吸気口やフィルタに堆積すると、冷却能力が低下し、過熱による機器停止を招きます。堆積厚が一定以上になると室外機に不具合が生じる可能性も示されています。空調が停止すれば、サーバーラックや制御盤、精密機器の温度管理ができなくなり、システムダウンや製造装置の緊急停止につながります。

こうした設備の停止は、企業活動の基盤そのものを揺るがします。

3.交通インフラの混乱

火山灰は、交通インフラにも深刻な影響を及ぼします。まず道路です。乾燥時に10cm以上、降雨時に3cm以上の降灰で、自動車は通行不能とされています。これに満たない場合でも、視界不良や路面上の灰の堆積により安全な走行が困難になります。さらに鉄道が停止すると自動車交通へ需要が集中し、主要道路では深刻な渋滞や通行止めが発生します。結果として、物流トラックや営業車両の運行は著しく制限され、企業の物資調達や製品出荷が滞ります。

鉄道は微量の降灰でも地上路線が停止する可能性があります。地下路線も利用者の急増や車両・作業員不足により運行停止や輸送量低下が生じます。これにより、従業員の出社や帰宅が困難になり、一時滞留者や帰宅困難者が大量に発生します。企業は出社を前提とした業務体制を維持できなくなります。

このように交通が停止すると、人と物の移動が同時に止まります。交通混乱が企業にもたらす影響の第一は、人的資源の機能停止です。従業員が出社できない、帰宅できない、あるいは徒歩以外の移動手段が失われることで、通常業務は即座に制約を受けます。

そして、こうした交通の混乱は、人と物の流れだけでなく、従業員の健康にも影響を及ぼします。

4.健康への影響

火山灰が人体に接触・吸入されると、さまざまな症状を引き起こします。

まず目への影響です。火山灰が目に入ると強い異物感を生じます。こすってしまうと角膜にひっかき傷ができることがあり、痛みや充血、かゆみ、涙、ねばねばした目やにといった症状が現れます。重症化すると結膜炎や角膜損傷につながる可能性もあります。屋外作業や移動を伴う業務では特に注意が必要です。

次に呼吸器系への影響です。火山灰は非常に細かい粒子であるため、大量に吸い込むと鼻や喉の痛み、胸のしめつけ感、発作のようなせき、ぜーぜーとした息苦しい呼吸などの症状が出ることがあります。ぜんそくや慢性呼吸器疾患を持つ人では、症状が悪化する恐れもあります。

皮膚にも影響も及ぼします。火山灰が肌に付着するとべたつきや不快感が生じ、摩擦によって炎症や痛み、腫れを引き起こすことがあります。また、ひっかき傷ができた場合には、そこから二次感染が起こる可能性もあります。

そのため、降灰時に防塵マスクやゴーグルの着用を徹底し、長袖・長ズボンの着用を促すとともに、屋外作業時間の短縮や室内への灰の侵入防止策を講じることが重要です。従業員の健康保護は、事業継続の前提条件であるという認識が求められます。

5. 企業が備えておくべきこと

富士山が噴火した場合、風向きによっては約2時間で火山灰が多摩地域に到達する可能性があります。まずは、気象庁や自治体が発表する降灰予報や噴火警報など、信頼性の高い情報を収集することが重要です。

降灰中は従業員の安全確保を最優先とし、原則として不要不急の外出や車両運行を控え、在宅勤務や自宅待機への切り替えを判断できる体制を構築します。

事業所では窓やドアの隙間を塞ぎ、空調室外機へのカバー設置など、灰の侵入防止策を講じます。

従業員用に防塵マスク、ゴーグル、長袖・長ズボンを備蓄し、清掃用具や灰の回収袋も準備しておきます。

停電や断水、物流停止を想定し、最低3日分、可能であれば7日分以上の食料・水・衛生用品・電源確保を進めます。平時から連絡手段や安否確認方法を定め、突然の降灰にも冷静に対応できる体制を整えることが、事業継続の鍵となります。

【事業継続力強化計画を策定しておきましょう】

富士山噴火は、いつ起きてもおかしくありません。しかし、起きてほしくない災害です。

だからこそ、備えているかどうかによって、企業の将来が分かれます。

「備え」はコストではありません。事業を止めないための経営投資です。復旧のスピードこそが、企業の信頼と競争力を左右します。想定外を想定しておきましょう。

プロフィール

梅澤 朗広

SDGusサポーターズ株式会社 代表取締役
日本JC公認SDGsアンバサダー
FC NossA八王子 アドバイザリーボード

大切にしている価値観:感謝・貢献・共創
野村證券、東京ヴェルディを経て2019年にSDGusサポーターズ株式会社を設立。SDGsの「持続可能な社会の実現」「誰一人とりのこさない」の理念に共感し、企業に対してCSV(共通価値の創造)の観点で事業活動と社会活動の両立に向けた経営サポートをおこなっています。SDGsと自社の活動に対する理解を深めてアクションを考えるワークショップや、様々なパートナーと連携して営業・広報・採用のサポートをおこなっています。

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