#21 2026年以降をどう描くか。労働人口の現実から考える中小企業の経営計画

第3週木曜日に発信

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2025年も残りわずかとなりました。年末に向けて日々の業務に取り組みながら、年末年始には「2026年以降の経営計画を腰を据えて考えよう」と思われている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、2026年以降の日本の労働人口がどのように変化していくのかという最新データを整理しながら、その前提を踏まえてこれからの経営計画をどのような視点で描いていけばよいのかについて、参考となる情報をお届けします。

1. 2024年時点ですでに始まっている「静かな人手不足」

まずは現在地を確認しておきましょう。総務省統計局によると、日本の労働力人口は2024年で6,957万人で、前年より32万人増加しています。しかし、この増加は主に女性の労働参加率向上によるもので、男性の労働力人口は既に減少に転じています。

つまり、「全体の人数はギリギリ維持しているが、中身はジワジワと減り始めている」という状態です。この“静かな人手不足”が、2026年以降、本格的な構造的な人手不足へと変わっていくと見込まれています。 では、この先、労働人口はどの程度のスピードで、どのように変化していくのでしょうか。

2. 労働人口は「減少前提」へ──データが示す不可逆な構造変化

2026年以降の日本では、「働き盛り」の人口が右肩下がりで減り続けるというのが、各省庁・研究機関に共通するベースシナリオです。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の予測では、今の働き方や労働参加率が続いた場合、労働力人口は2030年に6,556万人、2040年には6,002万人まで減少すると見込まれています。

一方で、女性や高齢者の労働参加がさらに進んだ場合でも、2030年に6,940万人と一時的に持ち直すものの、2040年には6,791万人へと再び減少します。

つまり、何もしなければ確実に減少し、努力次第で「減少スピードを緩められる」段階にあるというのが現実です。

厚生労働省も、2040年の労働力供給は2023年比で10〜15%減少すると試算しています。経済産業省の推計でも、生産年齢人口(15〜64歳)は2025年の約7,200万人から、2050年には約5,290万人まで減少する見通しです。

これらの予測が示しているのは、「景気が悪いから人が減る」のではなく、社会の仕組みそのものが、長い時間をかけて「人が減る方向」に動いているという事実です。

その背景には、次のような構造的な変化があります。まず、人口減少が進み、2050年代には総人口が1億人を下回ると見込まれています。同時に高齢化も加速し、2040年には3人に1人以上が65歳以上となります。

近年の労働力人口を下支えしてきたのは女性の活躍拡大ですが、それだけで全体の減少を止め切ることは難しい状況です。また、高齢者の就業率も上昇し、「65歳=引退」という前提は崩れつつあるものの、これも減少トレンドを反転させる決定打にはなっていません。

これらを総合すると、「日本の労働人口は増えない」「これからは減少を前提に、どう経営を組み立てるか」

という視点が不可欠になります。この構造変化を前提条件として、経営戦略を考えていく必要があります。

3.人手不足時代に中小企業が取り組むべき3つの打ち手

ここまで見てきたデータを踏まえると、2026年以降、人手不足は“一部の業界だけの問題”ではなく、すべての企業に共通する前提条件になることが分かります。その前提に立ったとき、中小企業が今すぐ向き合うべき戦略は、大きく次の3つに整理できます。

①採用
②定着
③業務効率の向上

このうち、「採用」と「定着」については、 採用定着士/社会保険労務士の高木先生が、これまでのTAMAWORK連載の中で詳しく解説されています。 そこで本記事では、人手不足時代を支えるもう一つの柱である「③業務効率の向上」に焦点を当てて整理します。

少ない人数でも仕事が回る仕組みをつくる

人を増やすだけでは、人手不足の問題は解決しません。 これから中小企業に求められるのは、少ない人数でも安定して成果を出せる会社をつくることです。

そのためには、まず 「人がやらなくてもよい仕事は何か」 「特定の人しかできない仕事はどこか」 を整理し、仕事の進め方そのものを見直す視点が欠かせません。

具体的には、次のような取り組みが有効です。

  • AIやデジタルツールを活用し、仕事の負担を軽くする
  • ムダな作業がないか、業務の流れを見直す
  • 誰が見ても分かるマニュアルを整備する
  • ベテランだけが知っているやり方を、組織全体で共有する

特に中小企業では、 経験のある人の知識を「見える形」で残すことが、 業務効率の向上と人材育成の手間削減の両方につながります。 こうした「仕組みづくり」をさらに一歩進めたものが、 次に紹介する省力化・自動化の取り組みです。

4.省力化・自動化― 少人数で最大の成果を出すための実践策

人口減少が進むほど、 企業の成長を左右するのは「限られた人材で、どれだけ成果を出せるか」という力になります。

その中核となるのが、省力化・自動化です。 これは単なるコスト削減ではなく、 人の力を本当に必要な仕事に集中させるための経営手段と言えます。

具体的には、

  • AI・デジタルツールの活用
  • 事務処理や報告業務の自動化
  • 属人的な業務の標準化
  • 現場の負担を減らす仕組みづくり

といった取り組みが挙げられます。 中でも生成AIは、中小企業にとって特に効果が大きく、 書類作成、顧客対応、教育・引き継ぎなどの場面で、「1人当たりの生産性」を大きく引き上げる可能性を持っています。詳しい事例は、「第19回NotebookLMで始める!社員教育をAIで仕組み化する3ステップ」をご覧ください。

5. DX・省力化を後押しする代表的な助成金

とはいえ、中小企業が自前の投資だけでDXや設備更新を進めるのは簡単ではありません。そこで活用したいのが、国や東京都が用意している補助金・助成金です。

ここでは、「業務効率アップ」「省力化・自動化」に直結する代表的な「業務改善助成金」を、現場目線で整理してご紹介します。

── 最低賃金アップと“省力化投資”を同時に進める

この助成金は、 「事業場内最低賃金を引き上げる」 + 「生産性向上につながる設備投資を行う」 事業者を支援する制度です。

● 自動釣銭機やPOSレジ
● 冷凍冷蔵設備、移動販売車
● 専門家のコンサルティング費用
● 従業員の教育訓練

などが対象となり、最大600万円まで助成されます。

最低賃金アップは「コスト」に見えがちですが、この制度を活用すれば、賃上げと業務効率化をセットで進めることが可能になります。

【活用事例】飲食店での省力化・業務改善ケース

創業37年の寿司和食おかめhttps://okamezusi.net/)では、 食器洗浄機が故障して手洗い対応になっていたことや、製氷機の能力不足により、営業中にコンビニへ氷を買いに行く必要があったことが、現場の大きな負担となっていました。

そこで業務改善助成金を活用し、 食器洗浄機と製氷機を追加導入(設備投資総額:138万円)しました。

その結果、

  • 営業終了後の片付け時間が大幅に短縮
  • 氷の買い出しが不要になり、現場のムダが解消
  • 従業員の賃金引き上げを実現
  • 助成金として約100万円を受給

といった成果につながりました。

このように業務改善助成金は、 単なる設備更新ではなく、「現場の負担軽減」「生産性向上」「賃上げ」を同時に実現できる制度です。

人手不足が深刻化する中小企業にとって、 省力化投資の第一歩として、非常に活用しやすい支援策と言えるでしょう。

7. おわりに

業務改善助成金はメリットの大きい制度ですが、申請には専門的な判断が必要な場面もあります。ご希望があれば、申請実績のある社会保険労務士をご紹介することも可能ですので、活用を検討される際はお気軽にご相談ください。

人手不足が前提となるこれからの時代、中小企業が持続的に成長していくためには、「人を増やす努力」と同時に、「限られた人で成果を出す仕組み」を整える視点が欠かせません。

業務効率アップや省力化・自動化は、その第一歩となる実践的な取り組みです。補助金・助成金を“きっかけ”として、自社の働き方や業務の進め方を見直し、次の一手を戦略的に踏み出していきましょう。

プロフィール

梅澤 朗広

SDGusサポーターズ株式会社 代表取締役
日本JC公認SDGsアンバサダー
FC NossA八王子 アドバイザリーボード

大切にしている価値観:感謝・貢献・共創
野村證券、東京ヴェルディを経て2019年にSDGusサポーターズ株式会社を設立。SDGsの「持続可能な社会の実現」「誰一人とりのこさない」の理念に共感し、企業に対してCSV(共通価値の創造)の観点で事業活動と社会活動の両立に向けた経営サポートをおこなっています。SDGsと自社の活動に対する理解を深めてアクションを考えるワークショップや、様々なパートナーと連携して営業・広報・採用のサポートをおこなっています。

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