
2025年10月26日の日本経済新聞が報じた 「AI席巻の米国、ブルーカラーを選ぶ若者たち 電気料金2倍が現実に」 という記事が、話題になっています。
記事では、AIの発展によってアメリカでは事務職などの ホワイトカラー(オフィスで働く仕事) の雇用が減る一方で、配管工や電気技師のような現場の仕事(ブルーカラー)の人気が急上昇している ことが紹介されています。 こうした動きを受けて、「AIが広がるほど、逆に“AIが苦手な仕事”の人気が高まるのではないか」 という見方が出ています。
では、この変化は日本でも同じように起きるのでしょうか。
その答えを考えるには、まず日本がこの40年間でどんな価値観を持ち、どんな産業構造を築いてきたのかを振り返る必要があります。
なぜなら、現在の働き方の課題も、AI時代におけるブルーカラーの価値上昇も、すべて過去40年の流れの延長線上にあるからです。
今回は、1989年のバブル期から現在までの40年間で変わってきた日本の価値観を振り返りながら、今後、日本のブルーカラーの世界でどんな変化が起きるのかを予測します。それに対して、企業がこれからの時代に備えてどんな準備をすべきかを明らかにしていきます。
目次 ➖
1. AIで揺らぐホワイトカラー、逆に高まるブルーカラーの価値

日経新聞によると、アメリカでは2024年末から2025年にかけて、大卒のホワイトカラーの失業率が 7.5%から9.2%へ上昇 しました。これは、AIの普及によってオフィスで行われる仕事が減り始めていることが背景にあります。
実際、Amazonは2025年10月に 14,000人の人員削減 を発表しました。また、スタンフォード大学の研究機関「Stanford Digital Economy Lab」によれば、生成AIが広まってから、AIで代替されやすい職種では新人の採用が13%減少しています。
その一方で、現場で体を使う技能職(ブルーカラー) の人気が急上昇しています。職業訓練校の応募者が増え、エレベーター修理工のような仕事では 年収1,600万円を超える例も出ています。
こうした変化の背景には、AIが言語処理を得意としており、書類作成やデータ整理などホワイトカラーの仕事から影響が出始めていることがあります。一方で、体を使いながら状況を判断するブルーカラーはAIでは置き換えにくく、その価値はむしろ高まっているのです。
2. バブル期から続いた“現場軽視”の40年── AIがついに価値観を反転させる

1989年のバブル期以降、日本では長い間ブルーカラーが低く見られる時代が続きました。
バブル期には、株や不動産でお金を増やす「財テク」が流行し、体を使って働くよりも“頭でお金を増やす人”が成功者とされました。この価値観が広がり、現場で働く人のイメージは徐々に下がっていきました。
その後の1990〜2000年代には、学歴を重視する風潮がさらに強まり、「いい大学に入り、大企業に入ることが安定した人生」という価値観が社会の主流になりました。テレビや雑誌でもスーツ姿のホワイトカラーの働き方がよく取り上げられ、ブルーカラーの仕事は「きつい・汚い・危険」という意味の“3K”として扱われ、若い人の敬遠が進みました。
さらに2009〜2012年の民主党政権では「コンクリートから人へ」という政策のもと、公共事業が大きく減らされました。その結果、建設業などの現場では新しい人を採用する余裕がなくなり、その時期に本来入ってくるはずだった若い世代が育たないまま現在に至っています。これが、今の「中堅人材が少ない」「技術を受け継ぐ人が足りない」という問題につながっています。
しかし、2020年代に入ると、これまでの価値観を揺るがす技術が登場しました。それが生成AIです。
3. AI普及と人口減少が生む“現場価値の逆転”:ブルーカラーが最重要職種になる理由
2023〜2025年にかけて、生成AIが一気に広まり、仕事の世界は大きく変わりました。AIはすでに、前章で見たようにホワイトカラーの仕事を中心に代替を進めています。
一方で、日本のブルーカラーが見直されている背景には、単に「AIで代替されにくい」という理由だけでなく、日本の社会構造が抱える複数の課題も関係しています。その理由は、次のように整理できます。
第一に、人口減少で、経験のある中堅の技術者がどんどん減っていることがあります。
特に建設、物流、設備工事、製造などの現場仕事では、40〜50代のベテランが少なくなり、技術を持つ人材が不足しています。
第二に、今後は外国人の働き手と一緒に働くことが当たり前になるため、彼らを受け入れられる会社が強くなるという点です。
日本だけでは働き手が足りないため、外国人スタッフが増えており、企業は「多言語の説明書を整える」「安全教育を工夫する」「生活サポートをする」といった取り組みが必要になっています。ここでも現場経験がある日本人スタッフが、外国人のサポート役として重要になります。
そして最後に、AIは現場の仕事を“なくす”のではなく、“助ける存在”として働きやすくしてくれるようになっていることです。
例えば、危険を予測するシステム、作業計画の自動作成、報告書を自動で作るツールなどが登場し、負担が減ってきています。
こうした構造的な要因と、AIが最も苦手とする身体的な判断力が求められるという本質的な理由から、40年間続いてきたブルーカラーが軽く扱われる時代は終わり、今はむしろ“現場で働く人の価値がどんどん上がる時代”になっています。 これからは、AIと一緒に働きながら、体を使い、判断力を発揮できる人ほど、社会にとって欠かせない存在になっていくと言えるでしょう。
まとめ:AIが終わらせた“現場軽視の40年”──これからの10年はブルーカラー企業のブランド戦略が命運を分ける
1989年のバブル期以降、日本の産業は長く「金融重視 → 学歴偏重 → 現場軽視」という40年の価値観の流れに支配されてきました。
しかし、生成AIの登場はこの流れを覆しつつあります。 AIが代替したのはホワイトカラーの事務作業や定型的な判断。 一方、現場で求められる身体性や判断力といった要素はAIで代替しにくく、その価値は今後さらに高まります。
そして、人口減少、中堅技能者の不足、外国人材の活用、AIの業務補完という複数の波が同時に訪れることで、「現場で価値を生む企業」こそが強く求められる時代に入っています。つまり、「現場を大事にし、人材を育て、AIもうまく使う会社」と「そうでない会社」との差が、これまで以上にはっきりしてくるということです。
だからこそ、今のブルーカラー事業者に必要なのは、
- 中堅の技能者を計画的に育てること
- 外国人材を組織に迎え入れる仕組みを整えること
- AIを上手く使って現場の生産性を引き上げること
- 採用・育成を“戦略化”すること
――これらだけではありません。
そして今後、ブルーカラー企業が本当の意味で成長するために欠かせないのが、
「自社の存在意義を言語化し、ブランドとして再定義すること」です。
なぜなら、AIの普及によって業務そのものの差別化が難しくなる中で、
“選ばれる現場企業”になる最大の力は「どんな理念や想いを持っているか」「どんな価値観で働ける会社か」といったブランドの明確化に移っていくからです。
・なぜこの地域でこの事業を続けているのか
・どんな価値を提供したいのか
・現場の仕事をどう未来につなげたいのか
・どんな仲間と働きたいのか
これらの“経営者の想いの再定義”こそが、
採用力を高め、社員の定着を促し、顧客やパートナーの共感を生み、
ブルーカラー復権の波を確実に自社の追い風へと変える源泉になります。
これからの10年は、ブルーカラー事業者にとって最大のチャンスであり、同時にブランドを磨き直す絶好のタイミングです。
AI時代だからこそ、現場企業は“自社の物語”を明確に語り始める必要があるのです。
プロフィール
梅澤 朗広
SDGusサポーターズ株式会社 代表取締役
日本JC公認SDGsアンバサダー
FC NossA八王子 アドバイザリーボード
大切にしている価値観:感謝・貢献・共創
野村證券、東京ヴェルディを経て2019年にSDGusサポーターズ株式会社を設立。SDGsの「持続可能な社会の実現」「誰一人とりのこさない」の理念に共感し、企業に対してCSV(共通価値の創造)の観点で事業活動と社会活動の両立に向けた経営サポートをおこなっています。SDGsと自社の活動に対する理解を深めてアクションを考えるワークショップや、様々なパートナーと連携して営業・広報・採用のサポートをおこなっています。
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