みなさん、こんにちは。
ブランドデザイナーのホーリーです。
グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートして約30年。
主に企業の広告制作に従事してきました。
2014年にブランディングと出会い、その「伝わる威力」に魅了され、その日からブランディングについての探求をはじめて今年で10年目となりました。
大げさな自己紹介をしましたが、とくに研究者というわけではありません。
現在は、企業の「らしさ」を磨いて、デザインで「よりよく」伝える、ブランドデザイナーとして企業の想いをお客さまへ伝えるお手伝いをしています。
今回は、先日SNSでも話題となった「悲しいほど売れなかった「刻みのりハサミ」、“名前を変えただけ”で100万本超の大ヒット商品に」( ITmedia ビジネスオンライン)という記事で取り上げられた製品についてのお話です。この製品がヒットした背景には、ブランディングのお手本ともいえる要素が数多く詰まっていました!
市場の変化に伴い、価格に対する価値観も変化
元々は「きざみ海苔が手軽につくれる!」という製品として市場に導入するも、当初は一年間で予定していた売上の半分程度だったそうです。その理由としては、商品そのものの性能ではなく1,800円という価格がネックになっていたとのこと。そもそも市販のきざみ海苔が安価で手に入るということもあり、ニッチな市場を狙っていたとは言え流石に狭すぎたのかも知れません。しかし、思わぬところから転機が訪れます。
『営業担当者が取引先を訪問した際、「妻が届いたDMやレシートの処理にこのハサミを使っている。手軽に使えて重宝している」という話を耳にしたのだ。』(記事本文引用)
製品発売の前年に「個人情報保護法」が施行されたこともあり、個人情報を守るという意識が社会全体で高まりました。そんな時代の後押しがあったとはいえ、わざわざ高価な電動シュレッダーを一般消費者が購入することは考えられません。そんな中、1,800円という価格は海苔を刻む目的には高価に感じられる一方で、シュレッダーとしては安価に感じられたはずです。

画像:ITmedia ビジネスオンライン(提供:アーネスト)
小さなブランドらしいネーミングの妙
また着目したいのは、重要なブランド要素のひとつであるネーミングです。この製品のネーミングは「秘密を守りきります!」です。この製品名はただ単に分かりやすく、覚えやすいだけではなく、消費者が製品を購入した後に得られるベネフィット※ が名前で表現されていて、その価値を素早く伝える役割を果たしています。また、リブランディング以前の「きざみ海苔ができます!」という名前も、製品の機能性がそのまま反映されたネーミングとなっていました。
◎ベネフィットとは:直訳すると「利益」「恩恵」「便益」を意味します。マーケティングの説明で使われる場合、「製品やサービスを利用することで、消費者が得られる具体的な価値や良い結果」というような意味があります。
顧客の潜在的なニーズを満たした機能的価値
またこの製品が市場に受け入れられた理由として、「家庭用で使う分には名前や住所など『見られたくない部分だけ』切れれば十分」というニーズが挙げられています。これにより、「手軽に個人情報を守りたい」という顧客のニーズに応えられたことがヒットの要因だと推測されます。また、発売から18年というロングヒットを支える理由については、製造元のアーネスト株式会社のコラムに「機能面でいえば、やはり置き型シュレッダーにはない手軽さがポイントだと思います」と記されています。
唯一無二のブランドストーリー
最後に着目すべきは、「きざみ海苔用からシュレッダーへ」という、他の類似品を製造するメーカーにはない独自のブランドストーリーです。この製品がヒットした後、他のメーカーから類似品が投入される中でも、このブランドストーリーがオリジナルの開発秘話としてさまざまなメディアに取り上げられ、長く愛される要因となり続けています。
いかがだったでしょうか。ヒットしている製品には、優れたアイデアやネーミングだけでなく、市場の選定や解決すべき課題の設定など、さまざまな要因が影響していることがお分かりいただけたのではないでしょうか。たとえば、「お~いお茶(缶入り煎茶)」、「鼻セレブ(モイスチャーティッシュ)」、「カレーメシ(カップカレーライス)」といった、誰もが知る製品も、ネーミングを変えることで成功を収めたブランドの例として挙げられます。
しかしながら、記事のタイトルにもある通り、単にネーミングを変えただけで成功したわけではありません。市場投入時に見られた課題を解消し、消費者のニーズに応じたブランドコンセプトを再構築することで、分かりやすく価値をイメージしやすいネーミングへと変更する努力がなされました。これらの成果は、携わったすべての人々の試行錯誤の賜物と言えるでしょう。
つづく
アーネスト株式会社 コラム
「改名して18年ロングヒット!「秘密を守りきります!」開発秘話」
出典:アーネスト株式会社 コラム「開発秘話」#01
ITmedia ビジネスオンライン(2025年01月16日公開)
「悲しいほど売れなかった「刻みのりハサミ」、“名前を変えただけ”で100万本超の大ヒット商品に」
出典:ITmedia ビジネスオンライン
プロフィール
Branding & Design TOYPLOT 代表
ブランドデザイナー ホーリー
1974年生まれ、大阪府出身。
デザインの専門学校を卒業後、数社の広告制作プロダクション勤務を経て、2010年3月独立。
TOYPLOTでは、企業のブランディング及び広告・デザイン制作のご依頼をいただいて活動しています。
これまで多くの広告制作に従事してきましたが、その過程でデザインだけでは解決できなかった課題も少なからずありました。制作したデザインで、クライアントの“想い”や“魅力”をお客さまに伝えきれているのか?と、もやもやとした思いを抱えていた時に出会ったのがブランディングでした。
これまで培ってきたデザインの経験とブランディングという戦略を武器に、“Branding & Design” で、顧客の成長とファンづくりをお手伝いします。
・ 東京都中小企業振興公社 デザイン経営スクール 第5期修了
・ 特許庁(独:INPIT)認定 デザイン専門家/ブランド専門家
・ 一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 トレーナー資格取得
・ 一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 1級資格取得
・ 一般社団法人ブランド・プランナー協会 2級資格取得
・ 公益社団法人 日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員
《 ブランディング・サービス 》
・中小企業の「強み」を活かした製品やサービスの開発サポート
・企業のブランドストーリーをカタチに 「ものがたりブランディング®」
・ブランディング入門サービス「3ステップ・ミニマム ブランディング」
・ブランディング講座(入門コース/ベーシックコース)開催
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