昭和37年に三鷹市で創業。あきる野市に移転してから30年と、多摩地区で製造業の担い手として歴史を紡いできた有限会社大川製作所。代表は大川正利さんが務めます。今回お話を伺ったのは息子で役員の祐司さん。祐司さんは、大手飲食メーカー工場、同業他社での勤務経験を経て2006年から家業を担い、日々業務に邁進しています。
企業情報:有限会社 大川製作所
事業概要:溶接・板金
住 所:あきる野市
代表取締役:大川 正利
実績と信頼をつみあげて60年、大手企業からも安定受注
大川製作所が手がけるのは精密板金加工・製缶板金加工と呼ばれるものです。板金や溶接技術を通じ、電車の部品や半導体製造装置の部品を作っています。
電車の車両の下にぶら下がっている金属の箱を、見たことはありませんか? 大川製作所ではこの空調の制御盤が入っている金属の箱や、運転席の制御装置が入るボックスの加工を手がけています。取引先は主に鉄道車両用の制御システムを作るエンジニアリング企業。同社との取引は30年を越え、関係性の強さを物語っています。
「電車関係は社長が引っ張ってきた仕事で、特に溶接に関する技術力が要求されるものです。クオリティが維持できないと、納品先である大手メーカーさんの監査に引っかかってしまいます。溶接技術は自社の強みとして継承していきたい」と祐司さんは話します。電車の製造に関わっていることから、大川製作所はインフラを支える仕事をしているという見方もできます。
溶接に関する高い技術力だけでなく同社が強みとしているのはスピード感。この業界では、急ぎの案件を受けたがらない傾向があり断る会社が多い中、大川製作所は積極的に受けています。
「新規開発のものはスピード勝負なので、いかに早く試作品を上げて納めるかが大事です。やはりそこはお客さんがあてにしてくれているので、その期待に応えたい」
これは今に始まったことではないそうです。柔軟性を持った社内体制にすることで、大川製作所ではこのスタイルを貫き続けられています。
そんな小回りの利くスタイルが功を奏してか、近年では仕事の幅が広がり電車部品や半導体製造装置に関わるもの以外の製品を作る機会が増えつつあります。昨年はライブイベントや展示会などで商品をプロモーションするための什器の製作を手がけました。
ペットボトル飲料を保冷のため氷水と共に入れたドラム缶をリヤカーに取り付けられるように加工、持ち運びを可能にした什器はスポーツ観戦客へのドリンクのプロモーションに使われました。 ウイスキー等高級感のあるお酒をプロモーションするため照明を仕込んだ什器はシビアな仕上がりを求められましたが、作業に携わった従業員からは「面白い」という声が上がったのだそう。祐司さんは「こういうわくわくする仕事もどんどんやっていきたい」と話します。
「同業他社への見学」が良い影響を与えている
創業から60年の歴史を持ち、取引先からは確固たる技術力を評価され、最近では華やかな場で多くの人目に触れる什器等も手がけている……。こう聞くと、順風満帆な会社のように思われますが、祐司さんの話によると以前の社内環境は必ずしもすぐれているとは言い難いものでした。祐司さんが入社した頃は、仕事はあるが納期を守れないことや不良品を出してしまうこともあったそうです。工場内の整理整頓も徹底されておらず、「どこに何があるか分からない状態」でした。
祐司さんにとっては、幼少期から子どもなりにボール盤で穴を空けたり、ねじの加工など手伝うこともあり、身近に接していた家業ですから、思い入れもあります。 お客さんからも「技術力があって仕事もあるのに、すごいもったいないことしている」と言われるほど……。この言葉に祐司さんは一念発起、社内改革に着手します。
――工場内の整理整頓に努めること。
――お客さんと会ったとき、お辞儀だけするのではなく、立ち止まってあいさつすること。
――終業前だけ行っていた掃除を、お昼前・終業後などマメに行うこと。
祐司さんは心がけたいことを書いて貼りだし、朝礼でもしつこいくらいに従業員に伝え続けました。祐司さんの熱意が伝わり、現在では徐々に従業員さんのマインドにも変化が見られるようになってきました。
祐司さんがここまで頑張れたのはモデルとなる会社があったからでした。同業他社で取引先でもある島田工業株式会社(群馬県伊勢崎市)です。
「社長が、すごく魅力に溢れている方で、メディアにも度々取り上げられているんです。工場なんだけど、良い意味で工場っぽくない。社員が100人くらいいるのに、ここ数年は定年退職を除いて離職者がゼロ。20~30代が多くてみんな楽しそうにやっているんですよね。社長からは、いつでも見学に来ていいし、良いところはどんどん真似して!って言ってもらえています。」
祐司さんは社内改革を進めるうえで島田工業をお手本とし、何度も足を運び、良いところは自社に持ち帰り実践してきました。
そんな中、祐司さんだけでなく従業員も一緒に見学に行く機会を作ることにしました。数人で訪れたのですが、特に影響を受けたのが若手2人でした。
「もう戻ってきたらすぐ、片付けから初めて。いらないものは思い切って捨てよう、と。工場では、よくあることなのですが、材料在庫をなかなか捨てられないんですよね。でも在庫があっても注文がなければ、ただの箪笥の肥やしなので…。今は、注文された分だけ材料を仕入れて作る時代ですから」
見学から戻るなり行動に移してくれた従業員さんがいたことで、祐司さんは今後も定期的に工場見学を行い、毎回数人ずつ連れて行こうと考えています。
ものづくりは、人づくり
同社の経営理念は「ものづくりは、人づくり」。祐司さんが現社長・父正利さんと話し合って考えたものです。
そのためには、働いている人に「やりがい」を感じてもらいたいと話します。
「どんな仕事であっても、一緒に働いてる人たちにやりがいを感じてもらいたいですね。うちの場合は完全に町工場で、ものを作るのが仕事ですから、納期や品質担保は必須です。そのうえで、自分たちの作ってるものが世に出て、役に立ってることを実感してほしい」
インフラを支えていることや、華やかなイベント会場で、自分たちの作ったものを多く人に見てもらえることがそれに当てはまるでしょう。
また、祐司さんは自己成長についても「やりがい」に挙げています。
そのために同社では半年に一度個人面談を行い、従業員一人ひとりが自らの目標に向き合い、達成できたかどうかを検証する時間を設けています。
「目標は、経営者側が設定するのではなく、自ら設定してもらいます。これから半年間の目標と、長期的な目標です。各人、主体性を持って目標を掲げるので、半年後には100%とは言い切れないですけど、ある程度は到達していますね。今やってる作業を極めたい・作業を一通りオールマイティーにできるようになりたいっていう人もいますし、いつかは工場長になりたい、という人もいます。本当に逞しいなと思います。」
皆さん、個別に面談時間を設けることで、普段はなかなか口にすることのない仕事への思いや自分のこれからについて話してくれるのだそうです。
ものづくりを通じて人を育てていきたい。口で言うのは簡単かもしれません。しかし、そこには従業員の成長なくして会社の存続はあり得ない!という祐司さんの覚悟が垣間見えます。
だからこそ、大川製作所では従業員一人ひとりの「やりがい」が絶対条件であり、半年に一度必ず面談の場を設けているそうです。
「できない品物はない!」従業員さんの感じるやりがいとは?
「やりがい」や「今後の目標」など、大川製作所で働く従業員さんに生の声を聞いてみました。
●仕事のどんなところに、やりがいを感じられますか。
「難しい品物や、やった事のない品物を考えながら作り完成した時に、最もやりがいを感じます。今まで培ってきた、溶接の技術や、失敗して得た学び・対策方法など、基本をしっかりと理解することで、自分にできない品物はないと思っています」
⚫︎ご自身が成長を感じたエピソードを教えてください。
「初めて溶接をした頃に教えてくれた先輩の仕事を受けて、その品物をお客様に出来が良いと褒めて頂いた際に成長を実感しました」
⚫︎仕事する上での今後の目標を教えてください。
「今後は学ぶだけではなくこれから入ってくる人材に、自分の経験や知識をフルで伝えて、お互い成長して行ければ良いなと思っております」
「基本に則り、難しい品物についても意欲的にトライしたい」と語る従業員とともに大川製作所は歩んでいます。
祐司さん自身も、今後は前述したイベントで使われる什器など難しくもやりがいが感じられるものの受注を広げていきたいと考えています。
60年の歴史の上に確固たる取引先がありながらも、そこにあぐらをかかず、他社をお手本にしながら社内環境の改善を目指す。従業員のやりがいを第一に考えるからこそ、新境地の案件にもトライする「町工場」。仕事に真摯に向き合える環境のなか自己成長が臨めそうです。