「梅澤朗広の採用SDGs」第9回目は、「働きたくても働けない人に活躍の場を与えるリモートワーク」について考えます。
【リモートワーク定着から「出社回帰」へ? LINEヤフーの新たな方針】
皆さんの会社では、リモートワークの働き方に対応していますか?先日、LINEヤフー株式会社が、2025年4月からリモートワーク制度を改訂し、原則として週1回、あるいは月1回の出社日を設けると発表しました。
これまでは、国内であれば居住地を問わず働ける制度がありましたが、今後は、カンパニー部門の社員は「原則週1回の出社」。それ以外の部門(開発部門、コーポレート部門など)の社員は「原則月1回の出社」が求められる方針です。
この発表により、コロナ禍を経てリモートワークが定着したかに見えた中で、「出社回帰」の動きに関する議論が巻き起こっています。
減り続ける就労人口
日本の就労人口は少子高齢化の影響で減少傾向にあり、総務省の労働力調査によると、1995年に約8726万人だった就労人口は2023年には約6830万人まで減少しました。今後も生産年齢人口(15〜64歳)は減少し続け、2040年には約5900万人まで落ち込むと予測されています。
こうした状況に多くの中小企業が慢性的な人手不足に直面しており、2023年の帝国データバンクの調査では、企業の53.2%が「正社員が不足している」と回答しました。大企業との賃金競争や福利厚生の差が採用難に拍車をかけており、若手人材の確保がますます難しくなっています。今後はどのように人材を確保し、維持するかが課題になっています。
この問題に対応するため、働き手の多様化や生産性向上が求められています。具体的には、シニア層や女性、外国人労働者の積極的な採用、デジタル技術の導入による業務効率化が挙げられます。また、従業員が魅力を感じる職場づくりとして、柔軟な働き方の提供や人材育成の強化も欠かせません。
リモートワークは効率的かどうか
リモートワークに関する研究は進んでおり、働き方は「完全出社」「ハイブリッド」「フルリモート」の3つに分類されます。しかし、生産性については明確な結論が出ていません。リモートワークが効率的な場合もあれば、出社が優れているという結果もあります。また、比較的スキルを必要としない業務では出社の方が効率が良いとされる傾向にあります。
働きたくても働けない人に活躍の場を与えるリモートワーク
「出社かリモートか」という議論は、「出社することに何も問題がない人」を前提としていることが多いです。しかし現実には、以下のような制約を抱えた人々も多く存在します。
・小さな子どもを育てるシングルマザー
・パートナーが転勤族で、働き続けるためには場所を問わない仕事が必要な人
・介護や健康面の理由で出社に大きな負担がある人
こうした人々にとって、出社を前提とした働き方は選択肢を大きく狭めてしまいます。一方、フルリモートワークを導入すれば、これまで採用できなかった人材層にもアクセスできるようになります。
例えば、オンライン秘書サービスを提供している株式会社キャスターでは毎月2000人以上の応募があると報告されています。リモートワークを前提にすることで、場所や時間に縛られない働き方を望む人材が多く集まることが証明されています。
経営者が考えるべきこと:目先ではなく中長期の視野
コロナ禍の4年間で、リモートワークに関するノウハウは大きく蓄積されました。信頼関係の構築やコミュニケーション不足が課題としてよく挙げられますが、工夫と改善によって解決可能です。たとえば、オンラインツールを活用した定期的なミーティングや、業務の進捗管理を透明化することで、遠隔でも信頼関係を築くことができます。
持続可能な働き方が企業の未来をつくる
日本の就労人口が減少する中で、中小企業が持続的に成長していくためには、多様な人材が活躍できる環境の整備が不可欠です。フルリモートワークやハイブリッドワークは、その有効な手段です。
リモートワークの導入によって、地理的な制約を超えて人材を採用できる事例が増えています。たとえば、地方在住の専門スキルを持つ人材や、育児中の親を採用した企業では、地元では見つからなかった優秀な人材を獲得し、プロジェクトの質を向上させることに成功しました。また、通勤時間が不要になることで、社員のワークライフバランスも向上し、生産性が上がったという報告も多く見られます。
コスト削減の面でも、リモートワークは大きなメリットをもたらします。あるスタートアップ企業では、オフィススペースを縮小し、その分のコストを社員のリモート環境整備費(椅子や机、Wi-Fi補助など)に充てました。その結果、社員の働きやすさが向上し、離職率を大幅に減少させることができました。
また、柔軟な働き方を可能にするために、目標管理ツールや評価制度の整備も重要です。OKR(Objectives and Key Results:目標設定と管理手法)やKPI(Key Performance Indicators:目標達成度を測る指標)を活用して、社員一人ひとりがリモート環境でも自分の役割や目標を明確に理解できる仕組みを導入する企業が増えています。これにより、物理的な距離に関係なく、組織全体が一つの目標に向かって進む一体感を生み出すことが可能です。 SDGsの目標達成に貢献しながら、中長期的な視野で人材確保や働き方改革に取り組むことが、企業の未来を支える鍵となります。「出社が当たり前」という固定観念にとらわれず、柔軟で持続可能な働き方を経営戦略に取り入れることが、これからの中小企業にとって不可欠な姿勢です。
プロフィール
梅澤 朗広
SDGusサポーターズ株式会社 代表取締役
日本JC公認SDGsアンバサダー
FC NossA八王子 アドバイザリーボード
大切にしている価値観:感謝・貢献・共創
野村證券、東京ヴェルディを経て2019年にSDGusサポーターズ株式会社を設立。SDGsの「持続可能な社会の実現」「誰一人とりのこさない」の理念に共感し、企業に対してCSV(共通価値の創造)の観点で事業活動と社会活動の両立に向けた経営サポートをおこなっています。SDGsと自社の活動に対する理解を深めてアクションを考えるワークショップや、様々なパートナーと連携して営業・広報・採用のサポートをおこなっています。
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